青夏

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 はっと我に返った瞬間、額から流れた汗が頬を伝った。  さっきまで祖母と話していたような温かい気持ちになったところで、俺はまた自転車のペダルに足を掛ける。  殺風景な畦道を過ぎて、商店街のアーケードに差し掛かると、学生たちの楽しそうな声が響いていた。キャッキャとはしゃぐ女子生徒の間を縫いながら、黙々と自転車を漕ぐ。  商店街を抜けると開けた海岸線に出る。  車道を挟んで左側には、年季の入ったレンタル釣り具店と、観光客相手の海鮮料理店が軒を連ねていた。この街は観光業が盛んで、毎年夏になると海水浴客で賑わうので、街が活気付く夏が一番好きだった。  夏休みは何しよう。  そんなことを考えながら、急勾配な坂を登り、駐輪場へ着く頃には汗でびっしょりになっていた。シャツの袖で額の汗を拭い、ガランとした駐輪場を見わたす。この様子じゃ一番乗りだろうと思っていたのだが、教室の扉を開くと、男子生徒の姿が目に入る。 「佐久間(さくま)、珍しいな」  俺の声に反応した佐久間が、一葉(かずは)おはよう、と言って、手元の教科書から視線を上げた。  涼しげな目元に涙ぼくろが二つ。後ろで束ねた明るい髪と、サッカー部の割に焼けていない肌。高身長且つ色素の薄い瞳のおかげで、佐久間は女子からの支持が厚い。 「遅刻魔がどういう風の吹き回しだよ」  欠伸をしながら佐久間の前を通り過ぎ、自分の席へ座る。  遅刻魔じゃなくて、遅刻する頻度が人より多いだけ。という、佐久間の声がして振り向くと、少しだけね。と親指と人差し指の間に間隔を開けてアピールしてきた。  いつもこんなふうにヘラヘラしているのだが、サッカー部ではエースを務めているし、勉強が出来ない以外は、これといったマイナス要素が見当たらない。  この前無理やり誘われた練習試合では、他校の女子までもが応援に来ていて、佐久間がシュートを決めると同時に、黄色い声援が飛んでいた。  俺は興味の無いサッカーと、女の子にチヤホヤされる友だちを炎天下で見て帰ってきた訳だが、一体何をしに行ったのかと後悔した。休みを無駄にした事を悔やんでも悔やみきれない。  そんな佐久間とは一年から同じクラスなのだが、親しみやすい雰囲気につられて話すようになり、気軽に言えない悩み事も自然と話せる間柄になった。
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