パピコに釣られて恋をする

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 コンビニを出て少し歩くと、小さな公園に着いた。大型犬を連れた老夫婦がベンチで談笑している。吠えもせずお利口に座ったゴールデンレトリバーは、曇った空を見上げて会話が終わるのを待っているようだった。 「ブランコ乗りたいから、付き合ってよ」  桜井はそう言うと、荷物を置いてブランコに腰掛ける。ギィギィ音を立ててブランコを漕ぐ姿を見て、優等生も無邪気なことするんだなあと思った。  ぼーっと立っているわけにも行かないし、俺も荷物を置いて隣のブランコへ座る。 「なぁ桜井さん」 「なーにー?」 「なにがあったか聞かないの?」 「何があったかより、元気ない佐久間くんが心配で公園に誘っただけだから。それに、一人で立ち読みしてるより、誰かと居た方が元気出るでしょ?」  ふふっと笑う桜井は、気遣いが出来る優しい子だった。知り合って日も浅い俺を元気付けよつとする姿は、陽だまりのように暖かい。  恥ずかしくて目を逸らす横で、思い出したようにコンビニ袋を漁り始める。 「そうだ‥‥佐久間くんと食べようと思ってたのに、すっかり忘れてた」  「はい、これ」透き通るしなやかな手に握られていたのは、見知ったアイスクリームだった。茶色いチューブ型の容器に、水滴がぽつぽつ付いている。小学生の頃よく食べた記憶が蘇り、懐かしい気持ちになった。 「パピコ?」 「そう、コーヒー味。一緒に食べよ」  パキッと二つ割れた片方を受け取ると、火照った手が冷やされて行く。 「ありがとう、俺もパピコ好き」  桜井はにっこり笑うと、感慨深げにパピコを眺め始めた。   「昔一葉とよく食べてたんだよね‥‥元気ない時とか、こんな風にくれたりして」 「そっか、幼馴染だもんね」  言いながら心がモヤっとする。  ただの思い出話を聞いただけで、何故引っ掛かったんだろう。気持ちの理由が分からないまま「いただきます」と一口食べると、渇いた心と体に染み渡っていった。 「あのさぁ」 「んー?」  パピコを咥えたままこっちを向く桜井は、無邪気な顔をしている。艶やかな黒髪から覗く瞳も、凛とした雰囲気とは違って可愛らしい。  塞ぎ込んでいた心が徐々に溶かされて、今日の出来事を聞いて欲しくなった。 「俺の話し聞いてくれる?かっこ悪くて笑えても我慢してね」  桜井はクスクス笑い「大丈夫、絶対笑わないから話してみて」と言う。全く信頼出来ないが、笑い飛ばしてもらえた方が救われるかも知れない。  俺はパピコを食べながら、最悪な一日について話し始めた。
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