序章 -黎明の姫-

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月の光も届かない闇の中。 照らす松明がチグハグな二つの影を映していた。 「なぁ。レイド。」 もう片方よりも随分と大きな人影が言葉を紡ぐ。 「なぁんで、あんな小施設の探索に俺らがかり出されたんだ?」 「仕方ねぇだろ。」 「レイド」と呼ばれた小さな方の人影が答える。 茶のセーターに黒いコート。 今宵の闇に溶け込むような黒の長髪をポニーテールに束ね、ジーンズに一振りの刀を携えている。 「情報が少なすぎる。」 「てぇのは?」 手入れされていない草むらにも似たボサボサの金髪。 背には斬馬刀ほどの大剣。 迷彩色のズボンにラフな上着を羽織った、筋骨隆々の大男が再び疑問詞を投げかける。 「制圧出来たはいいが、逮捕者がいねぇ。探索不可能なエリアもあるそうだ。」 一通り説明したあと、 「というか、お前は説明聞いてないのか?」 「そん時は多分、昼飯なに食うか考えてたんじゃねぇかな?」 ハア… 「相変わらずだな。ライアン。」 それからしばらくの時が流れた。 「・・・ここだ。」 小さな方の人影、レイドが呟く。 二人の視界には、亡霊のようにうっすらとした影が見えていた。 「はあぁ。こりゃ立派な廃墟で。」 右の二本の指でアゴをさすりながら、先ほど「ライアン」と呼ばれた大男が小さな矛盾とともにため息をつく。 恐らく、松明の灯りがなければ、その存在に気付きもしなかったであろう。 二人の前には、とてつもなく大きい、黒いキューブのような半壊した建物がそびえていた。 いや、半壊では語弊があるだろう。 恐らくは扉であったであろう入り口はなくなり、そこから左上斜めの壁と天井が破壊されていた。 建物の内部も何らかの残骸や瓦礫に敷き詰められている。 半壊どころではない。 一目見た限り、百人に九十人強は何じゃこりゃという感想を抱くだろう。 「随分と派手にドンパチやったようだな。」 レイドの言うように、戦闘は随分激しかったようだ。 ガラ.. ガラ...ガンッ 建物の中に物音が響く。 先ほどの通り、戦闘は激しかったようだ。 そのため、何らかの器具や部屋を仕切っていたであろう壁などは自ずと瓦礫や残骸に姿を変えていた。 言葉に表すと、「グチャグチャ」と言うのが正しいだろうか。 つまり... 「何やってたかサッパリだなぁ。」 と、なる。
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