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『俺俺詐欺ならご遠慮願います』
「あー! 待て待て、俺だよ!玲奈」
男は少し焦ったように彼女の名前を呼んだ。
すると受話器の向こうからはクスクスという可愛らしい笑い声が聞こえてくる。
『分かってるよ、洋ちゃん』
「なっ!!」
自分が騙されて取り乱したことに恥ずかしいくなり、思わず顔が赤くなった。
『それで何か用?』
笑い声も小さくなり、女は男に要件を聞いた。
「あ、うん。俺さ……明日行けなくなった」
ぎこちなく紡がれる男の言葉に女は驚嘆の声をあげる。
『どうして? ねぇ洋ちゃん! わたし洋ちゃんに来てほしいよ……』
女の声が悲しげな声へと変わっていく、
それでも男は行けないと告げた。
「どうしても外せない仕事が入ってさ、だから……今言うよ。結婚……おめでとう…………それから」
ぽつり、ぽつりと呟くように祝福の言葉を述べる。
「それから…… 」
『え? 聞こえないよ、もう一回言って』
男は自嘲を含んだ笑いをした。
「幸せになれよっつたんだよ! バーカ」
『洋ちゃ』
女の話を最後まで聴かずに受話器を置いた。
「それから…………サヨナラ玲奈」
数日後、あるアパートの一室で若い男性の死体が発見された。
鑑識の結果、死因は毒物による自殺であることが判明した。
尚、自殺の原因については捜査中である。
end
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