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シャッシャッシャッシャ・・・・・
規則正しく動く筆、その心地いい音に目をつむる日課がひどく愛しい。
(これ無くなったら俺、しんじゃうかも・・・)
そんな錯覚に陥るくらい、俺はここにいることを好んでいた。
「じーんせんぱいー」
「・・・・・ん?」
動かす手は止めず、それでも俺が話しかければ手を少しゆるめて応じてくれる仁先輩がおれは・・・・・
(好き、だ。)
もちろん、先輩としての憧れじゃなく、ひとりの男として、恋愛感情として。
だけどこの恋は、叶うことはないのだ。
(せっかく、男子校なのにね、?)
男子校だからそりゃあ、そーゆう感情をもつ奴も少なくはない。
一年前にこの美術部で出会った時には(何故か男に多く)モテる俺は、そこそこの自信を感じていた。
「・・・なに、どうしたよかめ?」
くすりと笑う先輩は、先輩自身が美術品かのように美しい。
木漏れ日が反射して、まぶしいと目を細める先輩が、美しい。
(好き、です・・・・・)
おれ、元々帰宅部希望だったんです、けど、ここってなんか部活入んなきゃいけない
じゃないですかー、だから、テキトーに入って帰宅しよーと思って!
先輩の絵も知らずに、俺は無神経なことを言った、その時点でもう、先輩の恋愛対象ではなかったのだ、おれは。
「はは、うん、そーゆー奴もいっぱいいるよ、」
だけど俺の好きな人はね、言ってくれたんだ、最初に会ったときに。
美術部に入ってよかった、こんなすてきな絵にめぐり合えた、お前すごいな、って。
先輩はこの上ないくらい愛しそうな顔をして言った。
だからこの恋は、叶うことはないのだ。
「・・・素敵な絵ですね、」
「・・・そう?ありがとう、」
そう言って微笑んだ先輩は、やっぱり綺麗だ、すごく綺麗。
大きく広げられたキャンバスに塗りたくられた黄色を見て、おれには出る幕がないのだと改めて気付かされた。
涙は流さない、おれは今日、ここを訪れるのに区切りをつける。
だっていつか、話したんだ。
先輩は覚えてるか、分からないけれど。
(かめはさー、ピンク色ってかんじだよね!)
(・・・え?)
(・・・笑うなよ、)
(だって・・・)
(おれの好きな人はさ、黄色ーいの。…イメージなんだけどね、?)
(・・・・・・ふうん・・・)
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