JK+U

2/2
前へ
/54ページ
次へ
開けっ放した音楽室から、少し控えめなワルツが聞こえた。 その音を奏でるのが誰かなんて、聞こえてきたその瞬間から分かる。 (や、ちょっと盛った・・・うん、五秒後くらいから、なら、) これが彼の親友(そいつは姉だと言い張るのだが、)のものならもっと豪快に、爽快に弾きあげられるだろう。 (かずらしーな・・・) (別に誰が怒る訳じゃないのに、) B型の癖にいつだって周りに気を配る恋人らしいと、思わずくすりと笑ってしまった。 「かあーず、」 それでも音は鳴り止まない。 「こら、かずくんっ!!」 「わ!!」 音楽室のドアからちら、と顔を覗かせて声楽科で鍛えた肺活量を存分に発揮して叫べば、もう、なんだじんかー、とあからさまにほっとするかわいらしい恋人の姿が漸く見えた。 「もう、無用心だなー」 「え??」 「こんな開けっ放しにしてたら誰かにやられちゃうよ?」 一発ぐさっ!てさ、って怖い顔をして見せたら、一瞬ひるんだ恋人はくすくす笑う。 「ばか仁、そんな怖い人ここにはいないよー」 「いや、わっかんねーよ?」 にや、とニヒルな笑みを浮かべれば、恋人は 「それでも今日でここへ来るのは最後だからもういいんだー」 と少し寂しそうに笑った。 大きな窓から照らす夕日が眩しい。 きらきら輝く恋人も眩しい。 (すげーきれえ・・・・) 「うん、俺もさっき、教室に別れを告げてきた、」 「ぶは、仁なんかそーゆーの似合わねえ、」 げらげら笑う恋人の手を引いて、うるせえよと抱きついた。 俺たちは今日、ここを卒業する。 ふたりが出会った思い出の場所。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

319人が本棚に入れています
本棚に追加