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「しかし、夜桜が見れぬとは残念でござるな…」
ひらひらと舞う桜の花弁を眺めつつぽつりと呟く。
青年…蓮次はとにかく桜好きで、春になるとこうして必ず花見をするという日課をもつほどにそれが好きだった。
今もこうして桜の木の下、屋台で買った焼きイカを片手に花見をしている。
特に夜桜を見るのが好きな彼は、妖が出る事を理由に見れない事を残念に思っていた。
「今宵は満月、さぞ美しい景色であるだろうに……」
「おーそこのニィちゃん!お前さんも一人で花見してないでこっちに来なさいな!」
「む、良いのでござるか!」
「あったりめぇよ!」
酒に酔い、赤い顔をした男が優しげな笑顔で手招きをする。
それに促された蓮次も参加することにした。
側まで行けばざっと十人は人が集まっており、よく見れば商人である事がわかった。
「見た所、旅人みてぇだが…今日は何しに来たんでい?」
「今日は桜が見頃と聞き、花見にやって来たのでござるよ」
「へぇー。いかにも桜好きそうな出で立ちだもんなぁ!」
そんな軽いやり取りをしていると、不意に商人の一人が声を潜めた。
「桜好きはいいけどよ、桜の化身には気をつけろよ?」
「桜の、化身?」
「なんでも日の国をうろついてる化け物ならしいぜ。そいつは夜な夜な現れては人をバッサリ刀で斬り捨てて去ってくって話だ」
「ほぅ、それは今宵現れるという噂の?」
「お、耳が早いねぇ♪」
そんなやり取りを数十分していると、不意に商人の一人が蹴り飛ばされた。
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