桜花ノ化身

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襲い掛かって来た侍を横に避けて攻撃を交わすと、軽く足払いをかけて転ばす。 素早く刀をピタリと侍の首筋に宛てがい、蓮次は笑みを浮かべた。 「共に花見を楽しむでござる」 時刻は深夜、動物も寝静まり冷たい静けさが辺りを包み込む異様な雰囲気を醸し出す桜の木の下で、うごめくモノが居た。 ギチチ…ギチ… 妖だ。 それは桜には目もくれず、ただただ獲物を待ち構えていた。 「お前が世間を騒がせている妖か?」 不意に、妖へ声を掛ける人物が現れた。 妖は獲物が現れたと歓喜の声を上げながらヒトに迫る。 「人間…獲物……喰ウ…!」 「……どうやら間違いないようだな。」 妖がある一定の距離へ近付いた瞬間、その胴体は二つに裂かれ、桜の花弁のような赤いモノとなって胡散した。 見えるのは、月の光を反射して白く輝く刀身が鞘へ流れるような動きでしまわれる姿のみ… その場には、桜の木から散った花弁とはまた違った花弁が散っている。 「この私の真似事をするには、弱すぎたな」 しゃん、と鈴の音が鳴ると同時にヒトはそこに存在していたのが幻であったかのように掻き消えてしまった。
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