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『人間はどうして生きるか・・・それは簡単だ。生かされてるからだ。俺たちを操る…誰かの意思の下で、生かされているから。お前だって見えるだろ?糸、これは運命の糸だ。それが切れれば死ぬ。俺たちを操ってる奴がそれを切れば死んでしまう。動かない人形のように止まってしまう』
それは本当かもしれない。
糸が見える
それは親子の共通点にして他人と相違点。
何の為に見えるか解らないこの糸
俺はその疑問を父に問えないまま。
それから二年経ったある日、父さんがいなくなった。
夕飯の買い物にでも行くか
のような気軽さで『行ってくる』とただ一言。そして、薄い笑み――
いつもの“仕事”なのだろうと思い、特に気を止めなかった。
だけど、見慣れているはずの父さんの笑みが、どこかさびしく、そして申し訳なさそうに見えた。
それが、胸に小さな毛玉ができたような、引っ掛かりだった。
父さんが居なくなって一週間過ぎた、嫌なくらいな
快晴の月曜日だった。
学校が終わり、俺は朝から
干していた洗濯物を片付けていた。
父さんが居えを空けがちな人で、自然、
家事は俺がすることになっていたし、料理もそこそこできるし、家事も苦じゃない、
そんな環境で育った俺だ。
別に一人で生活ができる。
だけど、胸にできた不安は、そうしようもないくらい大きくなっていた。
『初めまして、佐藤一郎と申します。』
三十過ぎの気のよさそうな男性。
営業マンのような軽薄ながらもしっかりしたスマイルを顔面に張り付かせ、紺色のスーツを着こなした、かっこいい男だ。
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