第三章

6/11
前へ
/107ページ
次へ
  ◇ 「ただいま」 「おかえり、彗乃」 瑶方が出迎えてくれるが、その表情は何処か固い。 「彗乃はもう自分の部屋に上がってなさい」 「何で?」 俺が彼に訪ねると、少しだけ笑って、「見るかい?」 と言ってくれた。 リビングを少しだけ覗く。 そこにはいたのは意外にも彼方と父さんだった。 何で二人とも怖い顔をしているんだろう。 「彗乃は渡さん、早く帰れ!」 「息子を引き取りに来て何が悪い、どうせ面倒を見ていないんだろう。だから彗乃を渡せないんだ!」 「違う、彗乃は大事な弟だ! 貴様には絶対渡さない!」 俺の、話……? 「まだ早かったかな」 疲れたように瑶方が微笑む。 「週一のペースで家に来てね、いつもあんな風に言い合っているんだ」 遥方が止めるのも聞かず、俺はリビングへと飛び出した。 「ただいま、兄さん」 「彗乃、何故瑶方の言うことを聞かない」 彼方の声はいつもより低く、怖い。 彼に小さく詫びて、父さんを見る。 「久し振りだね、父さん」 「あぁ、本当に久し振りだ。彗乃、父さんと一緒に暮らそう」 いきなりの本題すぎて、少し笑えた。 双子の兄の目線をひしひしと背中に感じる。 「俺、行かない」 自然と言葉が出た。 何故だか頭の中が凄く冷静だ。 父さんの表情が少し歪んだが、すぐに必死な顔になる。 「お前の欲しがっていた妹もいる、好きな物も何でもやろう」 俺は物で釣られるほど子供じゃなくなった。 俺だって成長したんだ。 「俺、兄さんたちと一緒が良い。兄さんたちが一緒じゃないなら、俺は行かない」 「何故……何故だ、彗乃……!」 父さんが半泣きになって俺の肩を掴む。 手が冷たい。 「兄さんたちが大好きだから。離れたくない」 彼方が父さんの手を振り払う。 「分かっただろ、早く出て行けよ」 彼方の低い声。 いつもより怖くない気がした。 観念したのか、父さんは俺の手に真っ赤な大きな石を握らせる。 「何ですか、それは」 黙っていた瑶方は片割れよりも低く問うた。 「我が家宝だ」 「貴方と彗乃は無関係な筈だ!」 遥方が俺の手にある石を払い落とした。 赤い石が床に転がる。 床の紅い光はまるで……。 「うわあぁあぁあぁぁあぁ!」 俺は近くにいた彼方に抱き付いた。 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。 血だ血だ血だ血だ血だ血だ。 桃花桃花桃花桃花桃花桃花。 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加