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◇
「ただいま」
「おかえり、彗乃」
瑶方が出迎えてくれるが、その表情は何処か固い。
「彗乃はもう自分の部屋に上がってなさい」
「何で?」
俺が彼に訪ねると、少しだけ笑って、「見るかい?」 と言ってくれた。
リビングを少しだけ覗く。
そこにはいたのは意外にも彼方と父さんだった。
何で二人とも怖い顔をしているんだろう。
「彗乃は渡さん、早く帰れ!」
「息子を引き取りに来て何が悪い、どうせ面倒を見ていないんだろう。だから彗乃を渡せないんだ!」
「違う、彗乃は大事な弟だ! 貴様には絶対渡さない!」
俺の、話……?
「まだ早かったかな」
疲れたように瑶方が微笑む。
「週一のペースで家に来てね、いつもあんな風に言い合っているんだ」
遥方が止めるのも聞かず、俺はリビングへと飛び出した。
「ただいま、兄さん」
「彗乃、何故瑶方の言うことを聞かない」
彼方の声はいつもより低く、怖い。
彼に小さく詫びて、父さんを見る。
「久し振りだね、父さん」
「あぁ、本当に久し振りだ。彗乃、父さんと一緒に暮らそう」
いきなりの本題すぎて、少し笑えた。
双子の兄の目線をひしひしと背中に感じる。
「俺、行かない」
自然と言葉が出た。
何故だか頭の中が凄く冷静だ。
父さんの表情が少し歪んだが、すぐに必死な顔になる。
「お前の欲しがっていた妹もいる、好きな物も何でもやろう」
俺は物で釣られるほど子供じゃなくなった。
俺だって成長したんだ。
「俺、兄さんたちと一緒が良い。兄さんたちが一緒じゃないなら、俺は行かない」
「何故……何故だ、彗乃……!」
父さんが半泣きになって俺の肩を掴む。
手が冷たい。
「兄さんたちが大好きだから。離れたくない」
彼方が父さんの手を振り払う。
「分かっただろ、早く出て行けよ」
彼方の低い声。
いつもより怖くない気がした。
観念したのか、父さんは俺の手に真っ赤な大きな石を握らせる。
「何ですか、それは」
黙っていた瑶方は片割れよりも低く問うた。
「我が家宝だ」
「貴方と彗乃は無関係な筈だ!」
遥方が俺の手にある石を払い落とした。
赤い石が床に転がる。
床の紅い光はまるで……。
「うわあぁあぁあぁぁあぁ!」
俺は近くにいた彼方に抱き付いた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
血だ血だ血だ血だ血だ血だ。
桃花桃花桃花桃花桃花桃花。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
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