第三章

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「大きなルビーだ。近い将来、必ず彗乃の役に立つ」 彼方は強く俺を抱き締めてくれる。 それだけが今の俺の全てだった。 「今の彗乃は赤が駄目なんだ、持って帰ってくれ」 そう言う彼方の声も辛そうだった。 もう嫌だ、止めてくれよ。 言葉にならない想いが涙となって溢れ、流れ落ちて行く。 「いいや、あれは彗乃が持つ。それは決まっていることなのだ」 父さんがそう呟いた直後、瑶方の拳が父さんの顔にめり込んだ。 「もう貴方は用がない筈だ、お引き取り願いたい」 低い低い声。 瑶方が初めて真剣に怖いと思った。 本気で兄さんが怒っているんだ。 半ば引き摺り出されるように父さんは家から出て行った。 「彗乃、大丈夫?」 俺の額を持って来たタオルで冷や汗を拭いてくれる瑶方。 先程までの恐ろしさはない。 「大丈夫か、彗乃」 そう言う彼方も息が荒い。 彼は目の前で桃花の命が消えかかっているのを見ているんだ。 俺より大丈夫な筈ないのに、俺の心配ばかりして。 瑶方が弟二人を優しく抱き締めた。 「こんな頼りない兄さんでごめんね、彼方、彗乃。皆を守れなくてごめんね」 瑶方が初めて俺に見せた涙。 いつもニコニコ笑ってて。 怒ったり泣いたりするのはいつも彼方だった。 双子は必ずいつも対象的だった。 「泣くな、瑶方。お前は頼り甲斐のある兄ちゃんだと思うぞ」 彼方が瑶方の頭を撫でる。 彼の目はとても優しい。 「だから泣くな。お前、俺の兄ちゃんだろう」 「こんな駄目な兄さんでごめんね……」 瑶方はそう言って泣き崩れた。 きっと今まで泣くのを我慢して来たんだろう。 僕は彗乃と彼方の兄さんだから。 そんなの勝手に思って、辛い時も悲しい時も、ずっと隠すように笑ってたんだ。 泣く瑶方兄さんは今のいつもより小さく見えた。
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