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◇
リビングに入ると瑶方がいた。
「ただいま」
「おかえり、彗乃」
ソファに座って新聞を読む瑶方。
タンクトップに半パンという楽な格好をしている。
「シャワーにしたよ」
「うん」
今日は暑い。
湯船に浸かる気にはなれない。
「もう夏休みに入るんでしょ。ゲームばかりしてないでちゃんと宿題しなよ」
「……はーい」
取りかけた小型ゲーム機をテーブルの上に置く俺を見て瑶方は楽しそうに笑った。
結構兄さんは腹黒だ。
「瑶方兄さん、彼方兄さんは?」
「あぁ、もしかしたら泊りになるかも知れないって」
「ふーん……」
瑶方が目だけで俺を見た。
「ねぇ、あの石って彗乃が持ってる?」
背筋が冷えた。
「え……何で?」
「処分しようと思ったらさ、いつの間にかなくなってたから」
遥方は新聞を畳んで、悩むかのように右手を顎に添える。
俺は少し間を置いて口を開いた。
「あー……あのさ」
今日は一度も石を見ていなかったのに、いつの間にかポケットの中に入っていたこと。
ついでに、今日の桃花の様子が変だったことも。
それを全部聞いた瑶方はむぅ、と声を漏らした。
「おかしいね、僕も彗乃が出て行った後で石を見てるんだけど……この石は魔法でも掛かっているのかな」
大まじめな顔で言う瑶方。
彼は何でもいつでも大まじめだ。
「まぁ、いいや。暫くは預かっておくよ」
俺は石を彼に渡す。
石をじぃっと見て遥方は断言した。
「大丈夫。これはウチのだから」
やはり瑶方兄さんには敵わないな。
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