8人が本棚に入れています
本棚に追加
「桜と云うのは悲しい花やんな。あれほど散るのを期待される花はないんやから」
彼女は桜の花びらを集めながらぼくに話しかけてきた。
「確かにそうだね。桜の花びらは散る瞬間が綺麗だとよく言われているしね。」
ぼくは適当に相槌を打ったのだが、彼女は気にもせず話した。
「余りにも当たり前であまり人は気にしーへんのやけど、花びらが散る、その最たる理由は風ではなく雨であると云うことがまたまたネタやんなぁ」
そう言いながら彼女は花びらを手に乗せ、木にかざしていく。
「確かににぼくも桜をイメージしろと言われたら、雨に濡れて気持ち悪くなった、靴に付いた桜をイメージするよ」
これは真面目に返したのだけれど、彼女はぼくに対して首を傾げるだけで何も無かったかの様に会話と作業を続けた。
「儚さをイメージさせるのにも例に挙げられるけど、私はそれに疑問を抱く。だって花びらは無くなっても来年咲くのだから。それより散ることを望まれるのを問題視すべきやろう」
「確かにそれは正しいけど、結局桜を眺める時間なんて30分もないわけなんだし。そんなことは戯言でしかないよ」
そう応えると彼女は桜の花びらを一枚ずつ木の枝に翳しながらいった。
「それもそうやなぁ。花見なんていうケドそれが葉の生い茂る木でも変わらないやん。要は何かにつけて集まりたいだけで花びらが散っていてもあまり人間は喜ばないんやな。さらに悲しくなったやん」
そう言って彼女は作業を終えぼくと共にその場を離れた。
満開の桜を背にして。
最初のコメントを投稿しよう!