異出亞

2/12
前へ
/14ページ
次へ
1  ぼくが通う市立鹿鳴館大学の存神館地下食堂はそれなりに繁盛してるが、金曜の10時半には人はあまりいなかった。朝ご飯には少し遅いし、お昼には些か早すぎるし授業のある生徒もいるのだから当たり前なんだけどね。  お金は哀川さんに仕事で貰ったのがまだ残っているし、困りはしないのだけれど、取り敢えず節約するに越したコトはないので学食で遅めの朝食を取ることにした。  別に好きなメニューも無いから適当にキムチ丼を頼んだ。この大学の学食というは初めてで辺りを見回していたら、おばちゃん達がひそひそ話し合いをしていた。  うーん、なにかあったのかな?  今日の授業はあと5限だけだし、魔女に借りた本を読みながら食事とでもするか。 「はい、お待ちどうさま」 おばちゃんがにっこり笑ってぼくのキムチ丼を渡してくれた。にっこりの意味合いなのかキムチが多めに入っていた。ご飯が見えない程に。僕はお礼が言える人間だから、おばちゃんにお礼を行ってレジでお金を払った。 まだまだ席は空いていたから適当に真ん中のほうに座っておばちゃんの親切心に感謝しながらキムチ丼を食べ始めた。 「…………」 おかしい。ご飯が見当たらない。まるで全部キムチだ。でもそれじゃただのキムチだ。まさかそんなことはしまい。多分元々のキムチ丼量が少なかっただけで、そこにさらにキムチを乗せたからこういう結果になっただけだろう。 取り敢えず食べ続けていればご飯が見て来るはずだ。 「…………」  (つら)い。(から)い。後少し頑張れば白甘い希望が見えるはずだ。まさかキムチだけなんて詐欺みたいなことしまい。 「…………」  完食した。キムチだった。ひたすらキムチだった。紛う事なくキムチだった。 物凄く舌が調教された気がする。いまならマクドナルドがご馳走に思えるだろう。 さて、そろそろぼくも現実に目を向けなければいけない。 つまりは食事中に、この席が沢山余ってるなか、わざわざぼくの目の前の席を選択した人類最強に声を掛けなければいけないということだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加