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男は、痴漢男を駅にある駅員室に引き連れて行った。 樹もそれに着いて行く。 (なんか…めんどくさいことになる気が…) 正直、世間同様、『男なのに痴漢をされた』というレッテルを貼られるのが嫌だった。 きっと、今日のこの件も警察に届け出ることになるだろうし、樹は被害者として名乗らなくてはならないだろう。 そんなことになるのは避けたかった。 (避けようにも避けれない気もするけどな…) この駅の駅員さんらしい人が二人出てきて、助けてくれた男に変わって痴漢男の腕を掴んでいる。 「おい、お前もこっちに来い」 「え、あ、はい」 男に呼ばれ、渋々男の隣に座る。 (これはもう、逃げるに逃げれない展開だ…) どうしてあの時、電車を降りてしまったのだろうと、今更ながら後悔する。 きっとこの男の、ハスキーボイスにやられたに違いない。 どこかで聴いたことのあるような、魅力的な声。 そんな声の持ち主に、樹が抗えるわけがない。 .
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