1146人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
男は、痴漢男を駅にある駅員室に引き連れて行った。
樹もそれに着いて行く。
(なんか…めんどくさいことになる気が…)
正直、世間同様、『男なのに痴漢をされた』というレッテルを貼られるのが嫌だった。
きっと、今日のこの件も警察に届け出ることになるだろうし、樹は被害者として名乗らなくてはならないだろう。
そんなことになるのは避けたかった。
(避けようにも避けれない気もするけどな…)
この駅の駅員さんらしい人が二人出てきて、助けてくれた男に変わって痴漢男の腕を掴んでいる。
「おい、お前もこっちに来い」
「え、あ、はい」
男に呼ばれ、渋々男の隣に座る。
(これはもう、逃げるに逃げれない展開だ…)
どうしてあの時、電車を降りてしまったのだろうと、今更ながら後悔する。
きっとこの男の、ハスキーボイスにやられたに違いない。
どこかで聴いたことのあるような、魅力的な声。
そんな声の持ち主に、樹が抗えるわけがない。
.
最初のコメントを投稿しよう!