ある物語

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夕闇があたりを包んだ頃、お姫様の部屋に乳母が訪れた。 姫様、内密にお手紙を承りました。 内容は確かめさせて頂きました。 けれど、きっと今のあなたには、これが必要でしょう。 乳母が差し出した手紙を受け取る。 なんのことか全く分からなかったが お姫様は手紙の封を切った。 親愛なる貴女様へ また再び会う約束を交わした後、貴女様が身分の高い姫だと言うことを知りました。 しかし、ご無礼ながら、今一度貴女様とお話しがしたい。 一目逢いたいと思い、馬を走らせて参りました。 もし逢って下さるなら、お城の裏手にある、森の入口でお待ち申しております。 彼からの手紙だった。 ずっと一日想い描いていた人からの言葉…。 身体中の血が全身を駆け巡り、一瞬にして彼女を熱くさせた。 夢じゃなかった… あの方がすぐそこにいる! 心臓が早鐘のように鳴り響き、顔が紅潮してくるのが分かった。 姫様。『限られた時』しか私は与えることはできません。 彼のもとへ行きますか? 乳母は寂しげな…切ない瞳で、彼女を見つめていた。 この恋の行く末が お姫様の幸せでもあり お姫様の不幸でもあることを 知っていたから…。
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