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ざわりと大きく胸が騒ぐ。
草ちゃんを殺した、犯人。
……私は会ったことがない。
何時か謝罪に来ようとしていたけど、私が会いたくないと突っぱねていたから。
あの頃の封じ込めていた思いが飛び出してくる。
私が空っぽになったあの日――。
気付くと、私はシャインに渡された紙を強く握り締めていた。
黒い感情が沸き上がってくるが、草ちゃんの顔を思い浮かべ自分を落ち着かせる。
そんなこと、きっと草ちゃんは望んでない……。
望んでないのは分かってる。
分かってるけど――。
ポロポロと涙が零れてきた。
胸の奥が熱くなってくる。
紙を握り締めて泣く私の手から、シャインは紙を取り上げた。
そして何かを書き込み、私の手にそれを戻す。
何かの地図がそこには書き込まれていた。
「その女が住んでいる場所と会社の場所を書いておいた。平日の昼間は、女は会社にいる」
「……」
「奪われたなら奪い返せばいい。あんたの全てを奪ったやつから」
シャインはバサリと羽根を動かすと、首から下げた銀の懐中時計のふたを開けた。
「仕事の時間だ。……またな、詩堂のぞみさん」
言葉を残し、懐中時計のふたを閉めると、ふっとシャインの姿が消える。
私は紙を握り締めたまま、ぼんやりと空を見つめていた。
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