交換条件

4/6

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
   そして感情の分からない泣き顔の仮面をこちらに向ける。 「今、俺はこの近くに住んでいる女を死の世界へ迎えに行くはずだった」 「……」 「だけどあんたが堕ちていくのが分かって、気付いたら受け止めてた」 「……」 「なんで受け止めたかは分からない。……いずれお前が死ぬ時に迎えに行く担当が俺だったからなのか」  ……さっきから一体何を言ってるのか。  死神に担当? なんなのだろうか。  ……でも、私が死んだ時に迎えに来る担当がこの死神なら話が早い。 「じゃあ、早く……。今すぐ連れていってよ。私、生きていくのが嫌なの」  シャインを凝視すると、シャインは掴んだ頭を包む手に込めた力を強くする。 「だーかーらぁ、お前の命が尽きるのはまだ先なんだって」 「まだ先だって言ったって、あなたは死神でしょう? 私の命を取るなんて容易いんでしょ?」  泣き顔の仮面の下で、シャインの舌打ちが聞こえて来た。 「……分かってねぇな。死神が命を取っていいのは神様に与えられた命の炎が尽きるときのみなんだよ」 「神様に与えられた命?」 「天命ってやつだ。人は神様によって命の長さを決められてるからな」 「……」 「だから自ら命を経つっていうのは神様にも俺たち死神にとっても“予想外の死”なんだ」  ……命の長さが決められてる?  じゃあ、私はいつまで生きなきゃいけないの?  シャインに言わずとも、私の表情から彼は察したらしい。 「そんなに死にたいか?」  私は戸惑いつつも頷いた。  早くこの苦しみをなくして欲しいと願って。  シャインはパラパラとノートをめくると、ある1ページを開いて手を止めた。 「じゃあ、条件を出そう」  思いがけないシャインの言葉に、私は聞き逃さないよう耳に神経を注いだ。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加