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「あの日だって、目すら合わなくて、笑いもしないし、むしろ嫌われてるんじゃって……迷惑だったんじゃないかって思ったくらいなんです」
「あぁ……そうだったの」
「なのに……あんな感じだったのに、いつ私なんか……」
神崎は刺身を摘んだ手を止めた。
「ていうか、秋山さんてどっちかと言うと中性的っていうか、綺麗過ぎてちょっと女の子みたいじゃないですか」
「ん……まぁそうだな」
「ファンの子達もよく王子様とか言ってるし。……顔、まともに見れないんですよ。挨拶するのがやっとでしたし。……もちろん下向いた状態でね」
ずっと憧れてたのに握手も求められませんでした、と俯く南緒に、神崎はため息をつく。
今更ながら、普段は割と社交的なくせに、好意を持つ男性を前にしてしまうと途端にヘタレになってしまうこの後輩の情けない短所を実感する。
一体いつどんな経緯があって亮介が南緒を好きになったのかについては、確かに神崎も謎ではあるが、この性格のおかげで、結局亮介に告白されるまで全く南緒は気付くことなく、彼とほとんど接触を持たずにいたものだから、ここまで大きく衝撃を受けてしまったのだ。
まさか、南緒がヘタレ全開で話し掛けられずにいる間、亮介が南緒への想いを募らせていたことも知らずに。
【彼の住所は雲の上】
(そんな存在だったんだもん。)
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