彼の住所は雲の上

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「で、どうしたの?」 「はい?」 「はいじゃねーって。つまりお前、秋山に告白されたんだろ?付き合ってくれって」 「はい……やっぱそうなりますよね……」 「何て答えたのかって聞いてんの。OKしたわけ?」 「あ、うぅ……」 そういえば、今日の南緒は一向に箸が進んでいない。 アルコールに弱いことは知っているが、大好きな炭酸類も頼まずに烏龍茶ばかり飲んでいる(詰め物が取れたせいか?歯医者に行けてないのだろう)。 とはいえ、返事について問われた南緒はずいぶんとばつの悪そうな顔をしていた。 「してません……」 「え、まさかフッた!?」 「まさか!……何て言うか、言えなかったんです。……何も」 驚きのあまり、何も言うことが出来なかった。 テンパると途端に頭の思考が停止してしまうのが樋泉南緒だ。 だから職業上、極力冷静さを失わないようにいつも心掛けていたのに。 「……何も言えないでいたら秋山さん、次に会った時に返事をくれって」 それはもう、見たことが無いような優しい笑顔で言ってくれたそうな。 【思いやり精神】 (でも、とんでもなく重大な宿題を出されたのも事実)
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