62人が本棚に入れています
本棚に追加
「よーするにあれだ、お前はまいを引き立たせるばかりでお前自身のキャラが薄すぎる!」
「わかってます」
「このままじゃまずいぞお前、女芸人初のじゃない方芸人街道まっしぐらだ」
「……後輩の傷に塩擦り込んで楽しいですか」
先輩芸人に飲みに誘われ、自分じゃ普段手を出さないようなちょっと高めのご飯をご馳走になりながら先輩・吉田の熱弁を聞く。
この道に入ってからはもうすっかり恒例であるが。
「何だよ、今日あんまり食ってねーな」
「……こないだ舞台の帰りに出待ちの子からもらったハイチュウを食べたら歯の詰め物が取れたんです」
「出待ち……って、お前らの?」
「まさか。神崎さんの出待ちだったらしいけど、タイミング逃して会えなかったんですって」
「おやおや……出待ちに失敗した揚げ句出て来たのが女芸人とは……そのファンもツイてねーな」
「ツイてないのはどっちですか!ハイチュウ食べなきゃ詰め物も取れなかったのに……しかも取れたの、今日仕事に来る電車の中ですよ!?お陰で今日は午前中の仕事の劇場入りするまで中途半端にハイチュウがくっついた詰め物を大事に口の中で飲み込まないように転がす羽目に……!」
「あれ、ところでお前そのパーカー新しいやつ?」
ハイチュウについての興味がわかなかったのか、話題をさらりと変えられたことにがくり、肩を落とす。
「……こないだ靴下買いに行ったら安かったから……」
「へぇ、お前のことだから1500円くらいか」
「いや、780円でした」
「……、さすが期待裏切らねーよ」
普段から可愛がってもらい、話も合う吉田との飲みではあったが、今日ばかりは早く帰りたい気分だった。
今日の南緒は、自分のキャラの薄さ、ハイチュウと詰め物、まして処分品のパーカーなんかよりも、別のことを独りで考えたい気分だったから。
【余裕ゼロ】
(アルコールが入ってもなお消えないあの瞳)
最初のコメントを投稿しよう!