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高橋は、死んだら楽になれるかも知れないと思った。
目の前に大きな柿の木があった。目立っていた。良い目印になりそうだ。
高橋は、この柿の木の下に令子を埋葬しようと思った。
もう自殺することは忘れていた。シャベルで木の傍を掘り出した。
落ち葉やゴミ、汚れた雪などを片付け、穴を掘り続けた。
時々、獣の声が聞こえた。怖かったが喰われたら喰われたで構わないと思った。
自分のような駄目人間など生きる価値が無いと思っていた。
もうどうでも良かった。
30分くらい掘ると令子が、すっぽり入るほどの穴になった。
高橋は、一息入れた。身体を動かしたせいで、寒さは気にならなくなっていた。
穴を見ていると令子の死体を納めた様子が、想像されてツーッと一筋涙が流れた。
高橋は、硬い表情でリュックから令子を取り出した。令子の顔は、見なかった。とても見られなかった。
令子の冷たく硬直した死体を穴に入れると夢中で土をかけた。
涙が、どんどん流れた。悲痛な呻き声が山に響き渡った。
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