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夢を見る。
私の日常が
終わりを告げた────
あの日の、あの鮮烈な“赤”を。
あれは、あの日最後に見た
夕焼けの色だったのか。
いや、あれは
私の血の色だったのか。
それとも………────
夜の闇など無いかの如く光の絶えない駅前繁華街。
だがそこには、我々が眼を向けないだけで、確実に闇は存在している。
光の届かないビルの隙間を縫う様に、二人の子供が走っている。
その服はまるで夜の闇に馴染ませたかの様に黒く汚れており、顔も黒く汚れているが、それが汗と涙で流れ、顎の付近で澱んでいた。
よく見なければ、それが男の子と女の子の二人組であることにも気付くことはなかったであろう。
女の子が、息を切らしながら言った。
「た……たいちゃん…たいちゃん………もう……は……走れないよ……」
すかさず、男の子は振り向き、
「ばかっ! 逃げるんだ! 逃げなきゃ、ちーちゃんもアイツに食べられちゃうぞ!」
と、声を荒げた。
途端に、女の子の顔が泣き顔でくしゃくしゃになり、
「ホントなの……? 先生オバケなの……? ケンちゃんも……ゆいちゃんも……食べられちゃったの……?」
と、嗚咽混じりに問いかけた。
「ああ、そうさ。ケンジもゆいもアイツに食べられちゃったんだ。ちーちゃんも見ただろ?」
男の子がそう言うと、女の子の嗚咽は更に激しくなり、
「いやぁ……いやだよ……! ゆいちゃん……! ケンちゃん……!」
と、泣き崩れてしまった。
「ダメだよ! 立って! 立って逃げるんだ! ちーちゃん! ちーちゃん!」
男の子は女の子の肩を揺すって促すが、女の子は泣き崩れたまま、まるで糸の切れた人形の様に力無くうなだれて動こうとしない。男の子は考えた。
ちーちゃんを動かすには、何か別の刺激が必要なのだ。
別の刺激が………。
男の子は肩に置いた手をそっと離し、まるで翼を広げるように大きく手を広げた。
そして女の子の両頬に……
そっと手を添え、顔を持ち上げた。
そして間髪を入れずに、唇を重ねた。
女の子はその途端に目をパチクリとさせた。
心がカラッポになった。
そしてカラッポになった心で目の前を見ると、自分の幼馴染がこれまでに見たこともないような距離にいるのが映った。
その顔は泥と汚れで黒く染まっていたが、汚れをまぬがれたその耳が、かつて自分が見たどの夕日よりも真っ赤に染まっていくのをはっきりと見た。
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