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「それは困りますねぇ……」
その声に、二人は背すじを凍らせた。
反射的に声のした方へ顔を向ける。
繁華街の光が差し込んで逆光になり、顔を見ることは出来なかったが、そのシルエットには見覚えがあった。
「こ、虎島(こじま)先生……」
「2年2組、辺見大志郎(へんみ・たいしろう)君」
繁華街の逆光で顔の見えない男は、ゆっくりと足を踏み出しつつ、男の子に呼び掛けた。
「は、はい………」
呼び掛けられた男の子は、大志郎は、辛うじて返事が出来た。
「同じく2年2組、阪東千夏(ばんどう・ちなつ)君」
「は、は……は………い……」
女の子は、千夏は、恐怖のためか歯の根が合わず、返事をするのもままならなかった。
「いけませんねぇ、子供がこんな時間に、保護者の同伴もなくこのような場所にいるとは……」
男は二人の足元近くまで来ると、歩みを止めた。
暗闇に目が慣れていた二人の子供は、そこでようやく男の顔を確認できた。
パリッとした縞模様のスーツを着たその男は、確かに自分たちの担任であることには間違いはない。
ただ、その眼は、闇の中でも光っているのかと見紛うほど爛々と見開かれているのに、うねるように黒く澱んでいた。
「せ……先生……」
大志郎は、恐怖を押し隠すように口を開いた。
「た……食べました……よね……?…………ケンジを………ゆいを……」
先生と呼ばれたスーツの男、虎島は、大志郎の一言を聞くと、深く大きくため息をついた。
その途端に大志郎と千夏の鼻を襲った強烈な臭いは、なぜか幼い時に行った動物園を連想させた。
それは、獣臭だった。
「……この3ヶ月、大変だったのですよ………? 近々引っ越す生徒や、家庭環境に問題のある生徒をピックアップして、その家族がまるごと消えても不審に思われないタイミングを図ったりしたのですがねぇ……。
今日も本来は、小泉賢治君とそのご家族だけにする予定だったのですが、まあ、小渕優衣君とそのご家族は、3ヶ月我慢した私自身へのご褒美だと考えることにしましょう」
自慢話にも似た虎島の告白を聞いているうちに、千夏はある一部分に異常な反応を示した。
「…………か……家族………?……まるごと……………?」
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