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「ええ、そうです。家族まるごとです」
虎島はそう言うと、口元を歪ませて笑った。
いや、それは笑ったのではない。
弛めた口元から現れた舌が、唇の周りを別の生き物の様に這い回っていく。
舌舐め擦りをしているのだ。
「子供が一人いなくなると、周囲は大変な騒ぎになるのに、家族がまるごといなくなると、なぜか周囲はまるで腫れ物にでも触るかの様に関係を絶とうとする。不思議なものですねぇ……」
大志郎は思い出した。
「そうだ、ケンジのお父さん、シャッキンしたって……」
虎島は、大志郎に澱んだ眼を向け、今度こそ本当に笑った。
「正確には、連帯保証による借金の肩代わりなのですがね。少なくとも、警察や周りの人間には、夜逃げ、借金取りによる拉致などの可能性は考えられても、真実に行き当たることは無い!」
虎島の開いた口はどんどん拡がっていく。
それは明らかに耳まで裂けていた。
「この私に食べられたッ!……という……」
虎島の眉間に現れたシワは、深く、黒くなっていき、縞のスーツは、糸をほぐしていくように、細かく分解していく。
「真実………」
耳まで裂けた口から、鋭い牙が突き出す。
「には……」
分解されたスーツは、縞模様の毛皮となって再生していく。
「ねぇ………!」
眉間のシワが縞の模様となり、毛皮と一体化した時、そこには、一匹の巨大な虎が現れた!
「これから私の血肉となるあなた方に、ひとつ最後の授業をして差し上げましょう。
紀元前221年、中国史上初めて“皇帝”を称した始皇帝は、度量衡、則ち長さ・体積・重さを統一し、更に貨幣・文字・車輪の幅を統一し、匈奴に備えるべく万里の長城を修復しました。
そして、生まれつき体があまり丈夫でなかった始皇帝は、不老不死を求めて、侯生と盧生、二人の方士に仙薬作りを命じました。
しかし二人は仙薬が出来ない事を恐れて逃亡し、怒った始皇帝は、儒学者460人を穴埋めにしました。
これを“坑儒”と言います。
……しかし、この話には“裏”がありましてねぇ。
盧生は、仙薬を作る過程において、とんでもないモノを創りだしてしまいました。
それが、あらゆる生物を超越した生物兵器“僵(キョウ)”。
……実は坑儒で死んだ460人の儒学者達は、盧生によって人体実験を受けていたのですよ」
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