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大志郎は、人間から変身した巨大な虎から庇うように、千夏を胸に抱えた。
「やっぱりそうだ。先生は虎のオバケだったんだ……!」
巨大な虎の眉間には、人間であった時の虎島の顔が一部だけ残されている。
その残された澱んだ眼が、大志郎を睨んだ。
「正確には僵僕使(キョウ・ボクシ)と言うのですがね。このような時にまで分析を止めないとは、さすがは私立百花(ひゃっか)学園に籍を置く生徒ですねぇ………」
もはや人間ではなくなった虎島の、牙が突き出た口から発せられた人間の言葉は、風穴から吹き抜ける突風のように、しゃがれた擦過音が耳を衝く独特の声であった。
大志郎は、胸に抱えた千夏を更に強く抱いたが、その時やっと千夏の異変に気付いた。
千夏は顔を青白くして、何かをうわ言のように繰り返していた。
「家族………まるごと………かぞ……く……ま……る…ごと……………………おとうさん………………おかあさん………」
千夏のうわ言を聞いた大志郎は、途端に目を見開き、虎島に向かって
「どうした!!」
と、声を荒げた。
「とうさんとかあさんをどうした!! 答えろ!!!」
虎島は口を開き牙を剥いた。
その行為は本来攻撃的なものであり、獣たる虎島の行為が、その原点であることを立証していた。
それは笑みであった。
「さすがは阪東千夏君、私立百花学園の我がクラスに籍を置く生徒ですねぇ!
あなた方が私の食事を目撃した後、私は直ぐ様あなた方の家に向かいました。
そこに逃げていてくれれば、ここでこの様な手間を取らずに済んだのですがね。
それは今後の戒めとするとして、まぁ感動の再会は、私の胃袋でおこなってもらいましょう!」
笑みとして開けた口は更に大きく拡がっていき、頭を低く、腰を高くしていく。
今まさに飛び掛ろうとした時、大志郎の顔は、殺意で満ちていた。
実際に能力の無い幼児期にのみ抱く、本気の殺意がそこにあった。
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