序章1(1) カケル

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  「………これはその時の傷よ」  シャワールームに、二人の少女がいる。 二人ともに容姿は淡麗で、一人は長髪、もう一人は短く切り揃えており、特徴が分かれている。 だが、それ以上にはっきりとした特徴が二人ともにあった。  長髪の少女は、右の脇腹に独特の形状をした傷痕を持っていた。 それは、ある一点から、何本もの傷が放射状に拡がっていくような形状であった。  髪の短い少女が、申し訳無さそうに言った。 「済まない……その………過去を……辛い過去を思い出させるようなことを聞いて………」  長髪の少女は、少しキョトンとした後、微笑みながら髪の短い少女の顔をチョンと突つき、 「何言ってんの。あんたのコレだって、似たようなもんでしょ?」 と言った。  その指先には、左の頬に十文字に引かれた傷が、シャワーで上気したのか、ほんのり桜色になっていた。 「…ン」 「あ、ゴメン。痛かった?」 「イヤ、コレは少し敏感なだけだ」 「………ヨロこんでる?」 「馬鹿を言うな。ヘンタイじゃあるまいし……」  その言葉に、長髪の少女はヒクッと頬を引き吊らせた。  髪の短い少女はハッとした。 「す、スマン……アイツの……そんなつもりじゃ……」 「いーのよ。アイツのことは………」 長髪の少女は、怒りと諦めの入り混じった、複雑なタメイキをついた。 「珍しいわね。あなたが他人に興味を持つなんて」  話題を変えたかったのか、長髪の少女が話を切り出した。 「正確に言えば、興味があったのはその傷だ。着替えや健康診断時には、そのような傷は見掛けなかった。戦闘シミュレーションの際にチラッと見た気がしたが、やはり気のせいではなかったようだ」  長髪の少女は、脇腹の傷をさすった。 「そうよ、体温が上昇すると、勝手に浮き出てくるの。消そうと思っても消せない、私の罪の証」 「罪……?」  長髪の少女は、ややうつ向き加減になり、眼が完全に隠れ、表情が判別しづらくなった。 「この傷が付けられたあの日………」  傷をさすっていた左手の指先が、傷を沿って行くように食い込んでいく。 「私が………アイツを……」  既にシャワーは止まっている筈なのに、頬を伝う水滴は、止まることを忘れてしまったかのように溢れた。 「“最弱の盾”に変えてしまった………!!」
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