序章

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序章

その日、空は雲一つ無い快晴だった。 見渡す限りの青、蒼、碧に大小様々な国に属する人々は喜び、或いは怒り、或いは悲しみ、或いは唇を歪めて笑んでいた。 「始めるぞ」 甲高い声がそう言い放つ。 それを合図に、声の主を中心として描かれた巨大な魔法陣の模様が、淡い光を浮かび上がらせる。 キュュュュイン そして歌う様に紡がれていく主の呪文に反応する魔法陣は、本来の能力を最大限に発揮しようと光の強さと比例し、ぐるりと魔法陣を囲む数十もの術師達が持つ魔力を一刻も早く吸い上げる為、その速度を上げた。 魔法陣に一人、二人と魔力を完全に吸い取られた術師達は、その場に崩れ落ち意識を失う――その一連を魔法陣の中心に立つ主は目視していた。 原因が自らの紡ぎ出す呪文の所為と分かっていながらそれでも止めないのは、倒れていく術師達が主にとって、今から放とうとしている魔法の糧になるだけの、生贄に過ぎないからだ。 その為、今し方魔力を吸い取られ倒れようとする最後の術師と偶然にも視線が重なった主は、その愛らしい外見に反して冷酷な笑みを浮かべて見せた。そうして僅かに呪文を紡ぐのを止めると、その術師に向けて言葉を放つ。それは楽しそうに、放つ。 「役立たずめ」 朦朧としていく意識の中、術師は主の言葉を聞き静かに笑みを返した。 労いになろう筈もない主からの言葉。それでも術師は幸せそうに笑みを浮かべ、自分が仕えるべく主に「すみません」と謝りながら地に体を預けた。 魔力が尽いた術師達が目を覚ますのは、凡そひと月後。 その間はひたすらに眠る。食事も取らなければ、途中で起きる訳でもない。ただ失った魔力が徐々に体へ戻るのを、眠りながら待つだけなのだ。さながら冬眠をする動物の様に。 だからこそ主は、倒れてしまった己の部下である術師達に言うのだ。「役立たず」と。 キュュュュュュイン 最後の魔力を吸い終えたと同時、魔法陣が満足げに音を発したのを主は聞き、そうかと誰に言うでもなく頷いた。 完成した魔法陣は、太陽の如く熱風と光を生み出し、今か今かと中心に居る主からの最後の言葉を待った。 待って 待って、 待って……、 そして時は来た。 「消滅魔法、アポロンの矢!!」
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