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モーターが唸る音が響き細かい振動がカプセル全体を振るわせる。本体と強化ガラスの境目から響く音がまるで悲鳴のようだ。
外側から相当な圧力がかかっていて妨げられているのか、何時まで経っても強化ガラスが持ち上がる感じがしない。仰向けのまま胸の上で祈るように手を組んでいた彼は眼を瞑って駆動音の波に身を任せていたが、遂に耐え切れなくなって内側から強化ガラス製の蓋を押し始めた。体中の筋肉が悲鳴を上げ貧血で倒れてしまいそうな程頭がくらくらする。
カプセルの中は激しい運動が出来るほどの酸素濃度に設定されていない。彼は荒い息を吐いて胎児のように体を丸めて低反発ゲルの寝床に寝そべった。カプセルが開放状態にならなかったことを示す警告音が三度鳴り響き、二度目の眠りに陥ろうとしていた彼の意識を叩き戻す。
逡巡無くスイッチを押し、ごうごうと響く駆動音の中彼は必死で蓋を蹴り続ける。生木を無理矢理折り曲げたような音が駆動音に混じって聞こえてくる、もう少しだ、両手足を踏ん張って蓋を押し上げる。
開いた隙間から汚泥が流れ込んでくるかもしれない、土砂が零れ落ちてくるかもしれない、瓦礫が転がってくるかもしれない。だが、心休まらぬ闇の中で不安な眠りにつくのは御免だ、ほんの数十分前まで何時覚めるとも知れぬ眠りについていたはずの彼の体に、焦りが活力を呼び戻した。
ばきん、と大きな音が響き彼の視界の端から端へ、一文字に白い線が引かれる。
光だ!
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