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「おおおおお落ち着け、落ち着け稔麿。俺が悪かった。あ、謝るから刀を仕舞え…ってくださいお願いします」
「ふんっ。次言ったら知らないから、首」
こくこくと刀が当たらなくなった首を男は無言で上下に振る。
安堵の溜め息を吐いた時、襖が開いた。
「おや、稔麿。帰ってきてたのですか?」
「まあね」
「おやおや…これはこれは…」
髪を項辺りで緩く纏めてある男は、言いながら後ろ手で襖を閉める。
笑って見える細い目で、つんとした稔麿と青ざめた男を見比べた。
「小五郎ー!俺、死ぬとこだっ…いだだだだだっ!!」
「はいはい。いつものことですね」
泣きついてくる男の短髪を引っ張って引き剥がし、小五郎は穏やかな口調で冷たくあしらう。
それを見た稔麿は嘲笑いながら、ざまあ。と呟いた。
「晋作。どうせ貴方が稔麿に暴言でも吐いたか、敵わない喧嘩でも売ったんでしょう?」
「なっ、敵わないとは何だよ!そんな俺が毎回負けてるみたいな…」
「正論でしょ」
「うっせえ!たまたまだっ!!」
晋作は、心外だ!と顔を真っ赤にして叫びながら、吊り目をますます吊り上げる。
「僕に一回も勝ったことが無いくせによく言うよ」
「はは、晋作の負けですね」
怒り叫ぶ晋作を尻目に稔麿は、馬鹿馬鹿しい。と部屋を出ていこうと立ち上がる。
そんな二人を面白可笑しく見ていた小五郎は、目尻に涙を溜めている晋作の頭をよしよしと撫でた。
「稔麿…どこいくんだよ」
「なんで僕が一々、牛に教えなきゃならないわけ?…はぁ、ただの厠だよ」
晋作の問いに振り返った稔麿はその目尻に溜まるものを見て、嘆息して出ていった。
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