2594人が本棚に入れています
本棚に追加
「よかったですね。稔麿は晋作を見捨てたわけじゃありませんよ」
「べ、別に俺はそんなこと気にしねぇし」
明らかにほっとして緩めていた顔を無理矢理に歪ませて、つんとそっぽを向く晋作。
「全く、素直じゃありませんねぇ」
そんな晋作を見て、やれやれと小五郎は溜め息を吐いた。
「…そういやあよぉ、稔麿が今度は異人に目をつけたってよ」
「異人…ですか?へぇ、それは興味がありますね。一体どちらで見つけたんでしょうか」
「さぁなー…また、面倒臭ぇことにならなきゃいいけど」
「はは。それは同意します」
毎度毎度、騒ぎに巻き込まれることを思い出して、げっそりとやつれる晋作。
隣で同じことを思い出していた小五郎は、言葉とは裏腹にとても楽しそうだった。
「くしゅんっ。…牛が何か言ったか?」
厠から出て廊下を歩いていた稔麿は牛。否晋作を思い浮かべてチッと舌打ちをする。
物凄い勘だ。
そして、ふとあることを思い出した。
「…ねぇ、いる?頼みたいことがあるんだけど」
誰もいない廊下で呟くと、懐から紙と筆を取り出して何やら書き出す。
それを折り畳んでその場に置くと、歩き出しながら、また呟いた。
「それを新撰組の一号まで頼むよ」
シュタ…
小さく何かが動いた物音がすると、そこにあったはずの文は、いつの間にか消え去っていた。
最初のコメントを投稿しよう!