第五章

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  楓は手渡された木刀のずっしりとした重みに懐かしさを覚えた。 …中学時代の話。 中学に帰宅部はなく、必ずどこかの部活に入らなければならなかった。…その時、楓はなんとなく剣道部に入った。 やるからには一番でなければならない。 見栄っ張りで厳しい母と、当時一番が当たり前だった楓の考えだ。 運動神経が優れていた楓は初心者なのにも関わらず、ぐんぐんと上達し、二年に上がる頃には先輩方でも楓に勝てる者はいなかった。 そして夏休みの、ある日。…市の大会に出ることになった楓は思い知った。 いくら才能に優れていても、やる気のない私では、その一つに秀でていて、人一倍努力をしている者には敵わないのだと。 その大会の結果は準優勝だった。 その後は母に叱られて罵倒され、豆が潰れるまで。手の皮がずり落ちるまで、永遠と機械のように木刀の素振りをさせられた。 今となっては馬鹿らしい話だ。やる気のない者が強くなどなれるはずがないのに。 あの時、私は少し足りとも“悔しい”などと思わなかったのだから。 「木刀…ですか」 嫌な思い出しかない木刀に楓は、ぽつりと呟いて、顔を強張らせた。 その呟きを耳にした沖田が可笑しそうに頬を緩まる。 「そうですよ!流石に私は箒では戦えませんからねぇ。くくっ」 「っ!あ、あれはっあの時、使えそうなものがそれしか無かったから…仕方なく…」 その時のことが可笑しかったのか、沖田は声を殺して喉でくつくつと笑う。 楓は笑われていることに恥ずかしくなって、言葉を窄めながら耳を赤くした。 自分でも可笑しな格好だとは思っていたのだ。  
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