第四章

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  ――――…… 男は部屋の戸を開くと、窓辺に腰かける見飽きた顔の男に声をかけた。 「ただいま帰ったよ」 「…随分と遅ぇじゃねぇか。坂本ならもう帰っちまったぜ」 窓辺の男は持っていた三味線から入ってきた男に目を向けると、その目を見開いた。 「てめっ、稔麿っ!なんで俺の着物着てんだよ!!」 「あれ、今頃気づいたの?鈍いねぇ…これだから牛は嫌いだよ」 やれやれと肩を竦める稔麿に、言われた男は口元をひくひくと痙攣させる。 そんなことお構い無しに、稔麿は自分の着ている派手な着物の裾を摘まんだ。 「僕の着替えを出すのが面倒だったから、そこに転がっていた着物を拝借したんだけど…」 「おい。着物くらい自分の着ろよ」 「…と言うのは嘘で、この格好だと着物だけ目立つから、何かしても牛の所為に出来るんだよね」 「はぁあ!?てめっ、なんて腹黒い考えで人の着物着てんだコラァ!!」 稔麿の腹黒い発言に男は三味線を手から離し、立ち上がって反論する。 稔麿は男を見下ろしながら呟いた。 「でも、牛の着物だと裾丈が足りないよ。ねぇ…もっと大きくなったら?」 「あぁ゙!?刀抜きやがれ稔麿ぉぉぉ!!」 ニヤッと馬鹿にした笑みを浮かべて男の禁句を言った稔麿に、男はいつの間にか抜刀して飛びかかる。 それを、ひらりと難なく避けた稔麿は男の手から刀を取り上げ、男の頭を押さえつけた。 男は稔麿に向かって鬼の形相で手を伸ばすが、手の長さが足りず、届かない。 そんな男を見下ろしながら、稔麿は楽しそうに口を開いた。 「それより話を聞きなよ。僕、次の獲物決めたから」 「はぁ!?またかよ。…で、今度はどんな奴なんだ?」 どれだけ奮闘しても届かないので諦めた男は、雑に腰を下ろして稔麿にも座るように手で促す。 素直に腰を下ろした稔麿は、上機嫌で話を続けた。  
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