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「……西東 藍ラン」
相手は諦めたかのように息を吐き呟くように話す。
西東…
さいとう…
「…藍?」
「そう、藍。覚えてる?」
誰だ?
友人にそんな奴はいただろうか。
らん…
「もしかして覚えてない?…ちょっとショックだわ~」
少し渇いた笑い声。
けれど悲しい響きはなく、からかわれている様な気さえした。
「澪、兄貴くらい覚えておけよ」
兄貴?
「…9離れた?…25の?」
「そうそう、それ」
思い出したくもない、嫌な記憶。
いや、楽しかったコトも覚えている。けれど、それが嫌な記憶で上書きされて胸の中に黒い雲が湧いた。
「そんなヤツが何?」
こんだけ時間をかけて思い出したわりに冷たい声が出る。
「酷くねぇーか、それ。仮にも兄……俺お前に、なんか、したか?」
また、溜息。
「それで何?親なら今日、誰もいないけど?」
彼は溜息をつき、さっきのおちゃらけた声とは違う、まるで怒ったように話しはじめた。
「澪、何時まで"いい子ちゃん"をやってるつもりだ?」
さっきとは違うその声が自分を思って言ってくれているのが分かって涙が出る。
それを感じさせないように私は言ってやった。
「藍兄。私は貴方とは違う。貴方の様な人生だけは送らないから心配なんて無用」
ちょっと、した反抗。
只、裏切られるのが怖くて突き放した。
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