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兄の忠実な下僕が了承を告げるより前に、激昂に染めていた頬を青ざめさせて、将軍は小さく舌打ちをした。
黒い目をしばたかせた騎士が、「だ、そうですが」と呟くと、兄は小さく手を振った。
深く頭を下げたライマーが、大人しく引き下がる。
忠誠心の熱さは、王位絶対を打ち立てる帝都防備隊の本分、その全権指揮官たる彼らしさということだろうか。
対して、進攻を繰り返し未だ燻る戦火を燃やし続ける北海の騎馬民族と対峙せねばならない地理的要因と同時に、北方より流れ着いた流浪の民の集合国家という歴史的検地からも、猛将で有名な北方十字軍の覇者であるハインリヒ将軍は、今は雄々しき爪を潜め、ただうなだれるにまかせている。
なかなかに不思議な図式であった。
作り出したのは、この兄。
神であり、国の王。
絶対であり、世界の覇者。
彼の言葉は絶対。
彼の意志は偉大。
尊大にしてぞんざい。
それでいて、正義。
「とにかく、王位は取って代わるのだ。口答えは許さない」
兄は急に詰まらなそうに口を尖らせ、けぶる紫煙を吐き出した。
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