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東方の一大都市。
元々工業が栄えたこの街に、先々代の王第二代アルベルト王が、歴史ある聖リンデン城を移築改装したことで更なる発展を遂げた。
この一大都市は、近辺としては珍しく、領主というものが存在しない。
東の外れという立地からか、工業地だというのに民衆はカリカリしておらず、王族の避暑地としても有名だった。
先代――我が父第三代アルベルト王が建造した西のヘルフォンシュミット城と対に例えられるだけあって、巨大な城壁の内側に賑やかな城下街、坂が多く、凹凸を形作りながら組み上げられた街は、更に内側に光孕んだ森を擁護して、数々の鳥たちが囀り歌う。
その中央に、リンデン城がそびえ立っているというわけだ。
僕ら兄弟――とりわけ兄は、父の作り上げた権威の象徴であるヘルフォンシュミットより、見ず知らずの祖父が守った美しく静かなこの城を好んだ。
聖宗教のために作られた城。
宗教に飲み込まれたこの国で、最も神聖で、最も飾らない場所。
あの恐ろしい兄も、この場所へ来ると気が緩むのか、鮮やかな大聖堂で度々眠っている姿を目撃したことがあった。
ステンドグラスを通して、淡く淡く降り注ぐ、色とりどりの宗教画。
約束、神、罪、断罪、悲壮、そして再生――繰り返され、巡りゆく断片の集まりはいつ作られたものなのか?
祖父が命じたのか、それとも移築される前の遥か以前から――。
皮膚を粟立たせるパイプオルガンの賛美歌に合わせ、列席者が立ち上がった。
優雅に腰を折る者、感極まって涙ぐむ者、ひたすら直立を保つ者。
どれだけの人間が集まったのだろう。
この場を作り出したのは、魔王。
影の向こうにかいま見る、神前の最奥に居座る男。
我らが王、アーデルベルト。
豪奢な王座に肘をつか、満足そうに目を細める彼は、たまに退屈に欠伸を噛み締めるのみだ。
見る限りの人波を、宰相の声が掻き分けた。
僕の名が呼ばれる。
諦めたように歩み出て、片膝を折った僕の前に、老人独特の細い影がかかった。
中央の王座から目を転じて左へ――この威光を留めんがため、列席を許された血縁や軍関係者、地方豪族。
列強の国使に、王子たち。
その目に宿るのは、打算、失笑それいがいになかろうに。
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