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これが忌むべき王家の膿ぞ!
やめろ、やめろ、やめてくれ!
そんなこと、僕が一番分かっている!
この兄、この背の前には、
霞みかける視界。
折りかけた膝を何とか持ちこたえたのは、かの絶対神が振り向き、蒼き瞳で心臓を射たからだ。
不正を許さぬ目、弱さを許さぬ光。
日の下へ出ると、栄光は冴え渡る。
焼けた肌――戦時を翔ける。
輝く瞳――拝借に罰を与えんがため。
にいやり笑った口元には白い犬歯が覗き――神をすら食い破り、血に染める獣。
兄は、手にした剣を薙ぎ払った。
「クラウスよ、よく目に焼き付けろ。これが全て、お前のものだ」
舞う極彩色は散らされた紙片。
あれが全て?
あれは兄のものだろう。
僕ですら、兄の。
僕に与えられたものなど、一つとしてありはしない。
バルコニィの外角に寄り添った兄が、剣を構え直す。
キチリ、繋がれた白銀の鎖が音を立て、人波がどよめいた。
彼は神、兄は守(かみ)。
絶対にして、絶望の、
「我が弟にして、ベルンバルト王子、クラウス・ブライトクロイツの成人に際して、神神の輝かしき祝福あらんことを!」
波が揺れた。
人民が吠える。
諸国の主どもが膝を折る。
さぁ、差し出された手に逆らうことなど出来ず、僕は恐ろしき舞台へと引き出される。
溢れる色彩、手先から伝わってくる体温、絶望の色。
逃げられぬ、逃げること叶わぬ願い。
色すら亡くしているであろう僕の様を眺め見、兄は満足に目を細めた。
まるで、ようよう肩の荷が下りるように。
まるで、長らくの悲願を果たせるように。
この時、気付けばよかったのだ。
今思うと、あの時程を見たのは初めてだった。
神よ、
この国を統べ、
この国の全て。
大きな獣は、再び牙を剥いた。
高らかに告げられる、
審判の時。
「諸君!」
辺りが一斉に静まり返った。
それはそうだ。そんなプロット、何処にも存在しない。
「よく聞きたまえ。現行、長らくこのベルンバルト、及びブライトクロイツ家は、家長たる俺が仕切って来た。それは皆、承知の通りだ」
灰の街に、光と同等の声は、鋭く、朗々と通る。
恐らくこれが神自身による訓示だと、皆分かっているのだ。
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