1章:混沌の聖地

6/6
前へ
/131ページ
次へ
予定にない言葉は、周知の事実をともない、ラグナロクを告げる。 「俺のごとき為らず者に仕えてくれて、本当に感謝している。だからこそ、このよき日に重大な告白をしよう。ここに一つ、知られざる王立法規がある」 掲げられた紙。 時の王によってのみ発刊される狼の印がつけられたそれには、懐かしき父の署名が。 「前国王、第三代アルベルト王による直筆だ。宰相どもも知らぬ。知るのは、限られた数名だけ」 兄は、ニヤリと笑い、 その文面に目を走らせた。 嫌な予感がした。 「《当家の正当なる王よ。 主はまだ幼き、 世は汝の物為。 幼き者よ。 汝無き今、 不在たる玉石の王座は、永久なる不在に等しき。 幼き者よ、 我を許せ。 汝無き今、 我は邪道なる子にこの椅子を渡す》」 古文体で綴られた文面には、何やら捨てきれぬ呪いがあるようで。 ここまでは序章だ。 むしろ、懺悔の走り書きに近い。 兄は続けた。 王の捺印を持つ、最上級の確約を。 「《我無き今、次なる王位は第一帝、アーデルベルトの物なりされどこれは正当な継承権を持たぬ者。 この事実は秘匿し、正当な継承者【真なる第一帝クラウス】の継承までの、暫定措置とす》」 どよめきが上がった。 皆一様に、理解に苦しんでいるらしい。 僕にも解らない。 何が? 何がどうなっている? 僕が、 正当な継承者? 一同の困惑を余所に、兄はくっくと喉を震わせた。 「諸君! 今日は真に素晴らしい! 一重と五つを数えた我らが真の統率者に、返すべきものを返そう!」 「王位継承だ」低い声は、兄の口から発せられたとは信じがたい、安息と絶望を孕んだものだった。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加