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諸公。
元より各地に点在する豪族たちによって形作られた国というものは、得てしてその風習を引きずり続けるものである。
例え、それを纏め上げたのが流浪の民であろうと。
豪族のいくらかは未だ大きな顔をして、あわよくば国政に口を出さんと狙っている。
元来小国の集合体として誕生した我が国にとって、それらはいつの世も、煩わしくいかんともしがたいものであった。
国政は彼らによって築かれ、王とは騎士の成り上がり。
いざという時、戦場で死んでもらうための駒でしかない。
そんな治世に変革を齎した幾代前の王ですら、彼らとのやり取りは密だったという。
偏に、力を有した彼らの多くは王家の血と混じり合い、国家元首と繋がれた存在であったから。
そして、彼らの多くは、力を失った後にも権力を欲しいままに国政に関わり続けてきた。
ある者は賢者に、
ある者は軍人に。
ある者は学者で、
ある者は選者。
才野溢れる者もいるにはいる。
だがその殆どは、凡庸とした才に家名という箔を付け足して得たもの。
彼らは己の地位に固執し、国政は長らくまどろんだ。
彼らの言葉には、いくばくかの力があった。
先代の美代までは。
地勢を国政から切り離したのは――我が麗しき兄だった。
兄は親戚を切り、血を殺しては、よじれた世を一本の柱とした。
己を元首とする、柱。
強固にして、絶対の柱。
幸い、兄には情けというものがなかった。
切れる者は薙ぎ払った。
その様は、敵味方混在する諸国の口端に語られる。
ある時は敬意の下に、
ある時は畏怖を込めて。
《独裁》と。
諸公は口を閉ざした。
兄の力に。
ブライトクロイツの権力に。
膝を折り、頭を垂れ、あわよくば再びの蜜月を狙いながら。
兄の下には、そんな彼らからの、きらびやかな贈り物が終始届けられた。
美しい飾り細工のレイピア、高価な毛織物、鮮やかな絵画に、異国の品々。
兄はそれらを、何の躊躇いもなく始末させた。
専用となった爐の管理は、兄腹心の仕事になった。
表情に乏しい彼と上がる煙を眺めながら、無益な話をしたこともある。
彼は、騎士と呼ばれた。
兄は至極簡単に、誰もが欲しがる宝物を手放したが、唯一血色の玉石だけは、ペンダントに細工させ持ち歩いていた。
その色は、彼による独裁政権の象徴であった。
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