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誰もが彼を恐れ、
誰もが彼を敬い。
誰もが彼を妬み、
誰もが彼を信頼する。
言えば、誰よりも公平。
されど、誰よりも孤独。
故に、絶対的な独裁、
そして誰よりも独断。
兄は、己のみを頼りに突き進む。
時に他人を捩伏せてまで。
どんなに茨の先であろうと、
どんなに血に塗れていようと。
いつだって、勝つのは兄。
どんなに相手に利があろうとも。
兄は神に愛されたのだ。
反した者には、盛大な葬送を。
そんな兄が、唯一に近く耳を傾ける者たちがあった。
「また、思い切ったことを仕出かしたものだ」
ソファに沈めた身を大きく延ばし、大きな猫目が細められた。
呆れて驚嘆しか出ない。
あまり向けられることのない感情をないまぜにした瞳に、当の兄はさして気にする様子もなく煙草をふかす。
南の水煙草は、珍しいさからか兄のお気に入りだ。
兄は、愉快そうにくつくつと喉を鳴らしながら、向かいのソファにのけ反った。
大理石で作られた書き物机に乗った、きらびやかな革靴が、何処を歩いてきたことやら、遠慮なしに泥を散らす。
「安心しろ。軍事面については、当分俺が指揮を取る。出来るかぎり早く全権を渡したいとは思うが、そこは仕方なかろう。餓鬼の頃から戦場駆け回ってた俺なんかとは違うんだからな。国力は落とさん。戦場で会う時は、味方であることを祈ってな」
「なければ、遠慮なく始末をつける……ですか。実に貴方らしいですね。しかし、僕が心配しているのはそこじゃない」
笑いと共に吐き出された煙りに、ちらとくべられる視線。
冷ややかなそれは、静かにため息をつき、肩をすくめた。
癖のある老木色の髪はふんわりと風を孕み、鋭い釣り目は若草色。
両極端を絵にしたような対比を纏う彼は、再びため息混じりに口を開いた。
「重要なのは、近隣国がどう思うかですよ。あくまで外交面です」
我が王家の縁戚にして、最大の外交国、東のネインクルツ公国。
公国とは名ばかりの強大な国力を有した土地を、長年納めてきたのが、彼の属するデッテンベルガー家だ。
中でも、正当な指導者として名高いこのゲールハルト・デッテンベルガー公は、兄に意見できる限られた中の一人だった。
兄とは同い年の幼なじみ。
しかしながら、片割れがアレである。
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