Anniversary 短編集

【解決編:意外な犯人】

「まず犯人はどうやって短時間に美咲くんの部屋に侵入し、小説を盗んだのか。更には日を改めて暗号を置きに行った理由は？」

　田中は思わせ振りに言葉を区切り、自身のデスクにある珈琲を一口飲む。

「実は犯人は美咲くんの部屋に侵入などしていないんだ」

　田中は得意満面な様子でおかしな事を言い出した。

「いや、んじゃどうやって私の部屋にあった小説を持ち出したんだよ。あの挑戦状だって……」

「――まあまあ、美咲くん。結論を急いじゃあいけないよ。そうだね。犯人を割り出すのは単純な事だよ。今言ったもう一つの件、わざわざ盗んだ日と別の日に挑戦状を忍ばせた理由。これを考えれば答えは一つしかないんだ」

　田中はチラッと雪菜に視線を移す。

「犯人は共犯をなるべく少なくしたかった。誰がポロッと口にしてしまうか分からないからね。それと暗号解読が得意な雪菜くんの存在が邪魔だったのもある。だから雪菜くんには暗号の存在を知られないようにしたんだ」

　田中は鏡司に近寄って紙切れを手にした。