【第一章:田中たかしの事件簿】

2/10
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 元警視庁捜査一課の刑事であり現探偵の田中たかしは、誕生日を目前にして憂鬱な気分に苛まれていた。  きっかけは数日前に舞い込んできた事件の依頼。  話によると宝物の主人公である神谷美咲(かみやみさき)とGAIAの主人公である美波雪菜(みなみゆきな)が、ある人物への誕生日プレゼントとして書いていた小説を盗まれたらしい。それの犯人を突き止める事――それが今回の依頼内容だった。  田中は依頼に来た二人が異様に必死だったのが印象に残っている。  ただ何故か“とにかく八月十八日までに犯人さえ分かれば良い。作品は自分たちで取り戻すから。犯人が分かり次第連絡が欲しい”と言われている。 「どっちにしろ後三十分か……」  田中は目の前にある珈琲に手を伸ばしてため息をついた。  そう。焦っているようで焦っていない今回の呑気な依頼だが、田中が頭を抱えている一番の原因は残りの期限まで後三十分程度しかない事だ。  更に言えば、田中はこの作品が自分への誕生日プレゼントだということを聞かされていない。ある事件がきっかけで仲良くなった今回の依頼主にさりげなく自分もその日が誕生日だと伝えてみたが、華麗にスルーされた。  それが田中を憂鬱な気分にさせた一つの原因であり、事件を解く鍵が不可解な事も頭を悩ませる原因の一つになっている。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!