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あたしは、ウキウキな気分のまま帰宅した。
こんな良い日はきっと良い事が続くものだ。
母親の容態もきっと大したことないに違いない。
父親からの連絡が無かったのもきっとそうだろう。
あたしは、いつも通りに鍵をさしこんだ。
鍵が開いている。
そうか、父親は会社休んだからそのまま家にいるんだった。
『ただいま』
『おかえり』
父の声が聞こえた。
父と母の部屋からみたいだ。
台所を通って、部屋を覗くと父がタンスから下着を出しているのが見えた。
あたしは、嫌な予感で少し血の気が引く。
『どうしたの?』
『うん、母さんがそのまま入院する事になったんだ』
『なんだって?』
『うん…、血液の検査したら菌を殺す白血球の数が健康な人の倍以上あるらしい。まだ細かい検査してみないとなんとも言えないけど、腸に腫瘍があるかもしれないって…』
『えっ?癌…なの?』
『まだわからないよ。ちゃんと検査して結果が出るまでは。
だから、亜由美も悪い事は考えるな。
いいか、母さんにも哲にも内緒だぞ』
『…うん、わかった』
(こんな重い事、あたしと父だけで支えるなんて無理だよ。誰に相談したらいいの?)
父は、着替えを届けて来ると言って出掛けて行った。
母親が癌かもしれない…
頭の中でグルグル回る。
あたしには、神様からの罰としか思えなかった。
いい気になりすぎていたんだ。
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