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『キレイ~!』
あたしは、感動して身を乗り出す。
地上30階の傘下には、夜景が広がっていた。
こんな夜景を見たのは初めてだった。
『ここは、関係者しか入れない秘密の場所なんです。
と言っても点検の為に造られたスペースなんですけどね』
へぇ~と感心する。
風が気持ち良い。
『佐山さんの家はどの辺ですか?』
『あたしの家は…ちょうどあの辺りです。今、電車が通ってるあの辺りです』
指差しながら、手すりに捕まって思わず手を振ってしまう。
『お~い』
あっはっはっと加藤さんは大笑いして、一緒に呼びながら手を振ってくれた。
『ちなみに加藤さんの家はどの辺なんですか?』
『僕のアパートはすぐそこ。多分近すぎて見えないかな』
『じゃあ、見えなくても加藤さんのお家にも挨拶しておこっと』
また、同じ様に下に向かって手を振ってしまった。
飲んでないのにテンションが上がっている。
彼は手すりをトントンと叩きながら、
『誰も居ないんだけどね』
と言った。
『奥様はどこかへお出掛けなんですか?』
『いや、実は…最近離婚したんだ。
この指輪は、まだ未練タラタラで外せずにいるだけ』
彼は親指で、指輪を弾いてみせた。
『そうだったんですか…。
あのぅ…理由は何だったんですか?』
『離婚の理由?
それはね…俺の浮気っ!』
『えぇ~!
やっぱり男の人って浮気するもんなんだ~』
彼はまた笑う。
『ウソ、ウソ。
ここ数年…仕事が忙しくなっていて妻とはすれ違いの生活になっていたんだ。
きっと彼女は何かしらのSOSを出していたんだと思う、でも俺は何も気付いてやれなかった。
ある日突然メールが届いて、しばらく実家に帰りますって…』
『それで、すぐに迎えに行ったんですか?』
『携帯電話は繋がらないし、実家の電話も出てくれない。
彼女の実家は、ここから車で半日もかかるんだ。
急いで仕事に目処をつけて、それでも行くまでに一週間かかった』
『で、どうだったんですか?』
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