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「はぁ……、何だかちょっと眠いデスね…」
今は帰り電車の中。先程まで気を張っていた事もあり、暖かい電車の中は碧を少し落ち着かせた。人の少ない電車の中、碧は力を抜き、うとうとと座席に身を委ねていた。
《次はー北区役所前~、北区役所前です》
「(あ、次…)」
碧は流れるアナウンスを聞き、膝の上にある鞄を持ち直してドアの前へ移動しようと立ち上がった。
しかし、いきなり誰かに腕を引かれ、碧は思わず歩みを止めた。碧は内心びっくりしつつ、腕を引いた人物の方を振り返った。
「…………」
「あ…あの、何デスか?」
腕を引いたのは彼―…、目立つ白銀の髪の男だった。それを隠すように深く帽子を被っている。髪の隙間からは透き通る様な碧眼が見え隠れしていた。
おまけに顔は「どこのモデルだ」と言いたくなる程整ってる。
…この狭い電車の中、しかも人のほとんどいない、何故私はこの人に気づかなかったのか。
頭の片隅でそう思った。
「君…」
目の前の人がやっと口を開いた。
私は、そのまま動けなくなっていた。
「君は……」
「え…?」
何を言い出すか分からない彼に、私はただただ彼の唇に釘付けになっていた。まるで時間が止まったように、周りの音が聞こえない。
自分の心臓の音だけが何故かうるさく響いていた。
《プルルルルルル―…》
「!!」
いつの間にか、電車は目的地に着いていたらしい。碧は慌てて彼の手を振り払い、電車を降りた。
「あっ、君!!」
後ろからの声は聞こえない事にした。追い掛けて来る様子もない。碧はホームを走り抜け、その場から逃げた。
心臓の音は変わらずうるさいままだった。
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