トランスパレンシー

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いつもの席。いつものコーヒー。いつもの景色。いつもの音楽。 いつもの匂い、光、温度。 並べると、特別じゃなく聞こえる。 でも、これは僕しか知らない時間。 胸の中でじんわりと、 自分をこの瞬間に溶かしてゆく。 冷えた手にしみ込むホットコーヒーの温もり。 あと少ししたらちょっと冷めて、猫舌の僕に丁度いい熱さになる。 必ずそう考えて、 僕の目は「いつも」、 ネオン街へとピントを変えてゆくのだ。 二階の窓際のこの席からは、 人々が行きかう夜の裏通りが見える。 日中は静かなカフェのそろう通りだが、 夜はその二階に軒を連ねるバーや居酒屋が明るい。 小さな路地裏だけど、季節に関係なく通りを彩るネオンが綺麗で、僕は勝手にネオン街、と呼んでいる。 今日も色とりどりの灯りが道を照らす。 仕事帰りの背中や、 幸せそうなカップル。 見ているこっちもほっとするような、幸せな気分になる。
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