トランスパレンシー

3/7
前へ
/7ページ
次へ
腕時計を外す。 ゴトリ、と木のテーブルに疲れた音。 こぼれそうに重く窓を伝ってゆく雫。 景色が歪む。 雨粒がひたひたとアスファルトを打ちはじめて、 僕はそっと、 今日も1人だ、と気づく。 前の恋から抜け出して、 もう何年経つだろう。 あまりに終わりが簡単すぎて、 あきれるような恋だった。 僕は自分すら分からなくなっていた。 自分が本当に恋愛していたのかすら、 自分を信じられなくなっていたのだ。 あの日もこんな、ぬるい雨で。 この小さなコーヒー店のコーヒーを飲みながら、 ネオンが歪むのを見ていた。 人が流れていく。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加