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雨の匂いというのは、
人間が唯一感じ取れる空の匂いだろう。
雫に揺れる傘の色の間に、
僕は見つけた。
濡れてゆくあの日の自分のように、
1人佇む横顔があった。
辺りを何度も見渡す様子から、
誰かを待っていることを思う。
寒そうに携帯電話を握る指。
目の前を何組もカップルが通り過ぎて行くのを目で追っては、
降り続く雨を見上げる。
時計が23時をさす。
いつから、待ってるんだろう。
僕はすっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲んでから、
またその横顔を見た。
雨宿りできそうな屋根はない。
細い肩は濡れていく一方で、
相手はいっこうに来ない。
前髪で隠れている目が泣いているような気がした。
毛先から落ちてゆく雫さえ僕は、あの日にそっくりだと思っていた。
来てほしいと誘った人が、
一晩待っても来なかった恋。
こっちを向いてくれていると、
信じていたはずだった。
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