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白い息を指先に吹き掛けながら、横顔はまた雨を見上げる。
…前髪のすきまに、
哀しそうな濡れた瞳があった。
さんざん泣いたんだろう。
腫れて、赤くなった悲しい瞳だった。
僕はコーヒーを胸に流し込んだ。ぬるい何かが、どくりと動く。
いつもの席。いつものコーヒー。いつもの景色。いつもの音楽。
匂い、時間、温度。
じんわりと「いつも」が消えてゆく。
濡れた景色。淡い音楽。
止まりそうに深い時間、
冷たい、冷たい温度。
びしょ濡れの背中は、
小さくしゃがみこんだ。
スニーカーが、
知らん顔で雨を受けつづける。
腕時計をポケットにしまう。
雨に濁ってゆく景色。
あの日と何かが違った。
ぼんやり、思い出す。
キラキラと輝くネオン。
行き交う人々。
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