トランスパレンシー

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僕は、席を立った。 そしてもう一杯、あたたかいコーヒーを買った。 カウンターの奥で挽かれる豆の香りが鼻の奥まで広がる。 あの日は。 濡れた格好で店内に入って。 窓際でコーヒーを手に外を眺めて。 目を閉じて音を聴く。 冷えた指先。 僕は。 コーヒーが手渡される。 僕は、ゆっくりと思い出していた。 どうして今日横顔を見つけられたか。 それは、 あの日のように、 僕自身が泣いていなかったから。 歪んだネオンの記憶は間違ってはいなかった。 ただ、雨だけではなかったのだ。
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